ミラボ HOME
3 - - lab? architect? architecture! ...and design etc. blog メール

TSUBAICHI  

tsubaichi 2009年
音楽を中心としたサロン(インテリア)
大阪市北区
→tsubaichi website

施工:大種工務店
椅子製作:坂田卓也製作所村上椅子
ロゴデザイン:石川麻紀子

構造・規模:木造地上2階(1階ロフト有)
建築面積:87.98m2
延床面積:203.55m2
>english
>写真のつづきをみる
>プロセスをみる

2008年10月のある日、一本の電話があった。
ちょうど一年前のある機会に出会ったその人は
そのとき話した私自身の音楽体験
前事務所で関わった音楽ホールやオペラの舞台美術の話をよく覚えておられ
大阪梅田からほど近くに独立して建つ元倉庫を見つけたので
そこに仲間と音楽を楽しむサロンをつくりたい、 と楽しげに話してくださった。

「倉庫」「サロン」という言葉がイメージとしてうまくつながらなかった私は
はじめ秘密基地に夜な夜な集まって音楽、という絵すら思い浮かべていたのだけれど
連れていってくださった場の、いさぎよい天井の高さと
自宅に人を招くように友人が集う場がつくりたい、
そしてコンサート以外にも絵や陶芸のギャラリーやお芝居に、といろいろ使えて
みんながいきいきと発信できる場になれば、という場の思いから
次第にそのイメージの輪郭が、木陰のような
あるいは教会のようなものへと変わっていった。

日本には数え切れない数の公共施設があるけれど
それぞれの地方に風土や文化、そこに集う人が違うのにもかかわらず
どれもとてもよく似ている。
それは「一体だれのためのものか」と問われたときに
だれも具体的な名前をもつその顔を思い浮かべることができず
やがて「市民に開かれた」が「なるべく角がたたない」とイコールになって
設計を進めるほどに最大公約数になってしまうその仕組みの持つ宿命のためだと
実際に地方公共施設の立ち上げに携わってみて、初めて分かった。

一方、その後京都で暮らし
夜桜コンサートや現代美術、書道の展覧会でにぎわう「生きたお寺」
またクワイヤーコンサートや季節のパーティーで人の集う「生きた教会」といった
小さくても、個性的な芸術の場に触れるうち
日本の公共施設の原点はこういう場にあるのではないか、と強く考えるようになった。
あるいは必ずしも宗教でむすばれた間がらでなくてもよいのかもしれない。
昔の日本には町のリーダーになるような大きな家があって
そこに人が集まり、みんなでおいしいものを持ち寄りほおばりながら
いきおい一芸を披露する宴となったり。
そういった顔の見えるだれかが慈しみ育てる場のもつ本質が
熱をもって話される彼女のサロンのイメージに近いように感じられ
また、青空のもと楽器を演奏する人、本を読む人、ジョギングする人が場を共有する
鴨川べりの風景とも重なり始めていた。

この「教会」や「鴨川」の話はもちろん
ここに来られるお客さまに直接する機会などなかったのだけれど
「ここで音楽を聴くと、まるで教会にいるようです」と、ある感想をうかがったときには
パズルのピースがそっとはまったような感覚になった。
実際わたしも、サロンで即興的に始まった
「amazing grace/アメージンググレース」を耳にしたとき
音がやわらかく豊かに拡散するように、と
ゆるやかなアールで開いた3つの壁がつまはじく音色が
体全体をふんわりととりまくのが分かった。
また座るベンチのとど松のあたたかさや
天井を一層高く感じさせる間接照明のかろやかな明るさともあいまって
幸せな春が立体となって立ちあらわれたかのようにも感じられた。

飛鳥時代の古代の市としてはじまり
やがて長谷寺参詣の入り口として栄えていった「海拓榴市/椿市(つばいち)」から
その名をいただいたこのサロンが
「アート」を介し女性たちに育てられながらどのように変化していくのかが楽しみで
感慨深いスタートの春となった。